11月に行われた技能五輪全国大会で、天童市の家具メーカーに勤める家具職人が大会史上初の4連覇を成し遂げた。年齢制限でことしが最後の挑戦、共に技術を磨いてきた仲間もそろって入賞するうれしい快挙となった。
輝く金メダルを首にかけ笑顔を見せるのは、天童市の家具メーカー・天童木工に勤める入社5年目の石橋葵(あおば)さん。
11月下旬、愛知県で行われた「技能五輪全国大会」。
原則23歳以下の若手が技能レベルの日本一を競う大会で「家具職種」部門の最高賞・金賞を獲得し、大会史上初の4連覇を成し遂げた。
(天童木工・石橋葵さん)
「初めて金メダルを獲ってからこの4年間、ずっと日本一の職人という立場を守り切って、初めて4連覇・史上初という記録も立てられたのですごく幸せだなと思う」
2023年、自身が作った3連覇の大会記録を塗り替える快挙。周りから注目されプレッシャーもあった。
(天童木工・石橋葵さん)
「去年はけっこう結果にこだわってしまって本番うまくいかない、いつも気付くことを気付けないところもあった。ことしは金メダルも獲りたいけど、結果より中身を特に重視するようにと思っていたので、4連覇の金メダルを獲った時はすごくほっとした」
石橋さんが目指したのは「誰が見てもきれいな家具」。
大会では事前に配布された図面に基づき、2日間・合計11時間でキャビネットを完成させる。ただ、大会前日に仕様の一部が変更されるハードルも設けられている。
石橋さんは、図面が発表された8月から1日も休まず、練習に励んだ。
(天童木工・石橋葵さん)
「最初はまずカタチにしてみて、それをどうやって効率的に作っていくかという手順を何パターンも考えながら作ってみた。そのあとに自分が苦手な扉の調整やどれだけうまく作れるかを練習したあとに、実際11時間を計って、その中でどれだけの精度を出せるのかをずっとやっていた」
図面の変更もさまざまなパターンを想定するなどし、作った試作品は全部で18個。
大事な道具も念入りに手入れした。
(天童木工・石橋葵さん)
「かんなの刃をどれだけきれいに作れるか・きれいに研げるかというのもそうだし、現地に行った時の湿度などでまた変わってくる。それを考えて、本番自分が削りたい具合に削れるように調整した」
0.1ミリ単位の繊細な作業。隙間のない美しいキャビネットが完成した。
石橋さんは会社で、議場や執務室の机など大型の特注家具を手掛けている。普段の仕事で求められる技術が大会にも生きていた。
(天童木工・石橋葵さん)
「仕事をする上で仕上がりはすごく重要なことで、仕上がりを細かくできるようになったので、技能五輪でもどこまで細かくできるかというのはすごく生きたと思う」
そして今回、天童木工として初めて、出場した3人全員が入賞するという大きな快挙を成し遂げた。
石橋さんの金賞に加え、大滝陽平さんが「銅賞」、庄司将史さんが「敢闘賞」を受賞した。
実は、3人は同じ入社5年目の同期。今回念願の3人そろっての入賞が叶った。
(石橋葵さん)
「初めてだったので1人で獲るよりうれしかった」
(大滝陽平さん)
「盛り上がって感極まっていた。涙が出るくらいうれしかった」
(石橋葵さん)
「実際、庄司泣いてたもんな」
(庄司将史さん)
「それ俺な」
庄司さんは2人と一緒に頑張りたいと、ことしから部署を異動。
仲間として、ライバルとして…。3人で並び、休みの日も集まって、時には石橋さんが2人にアドバイスしながら技術を磨いてきた。
(庄司将史さん)
「引き出しを入れた時の、最初はスーッと入るが途中から同じ力をかけているのにゆっくり入っていくのが本当にすごいなと。それをしようと思ってもやっぱりできないので、すごい」
(石橋葵さん)
「こういうのは全体のバランスを見ながら、後ろと前の方で削り方を変えなくてはいけない。後ろは入りやすいよう少し大きめに削って、前の方はちょっときつめに作る。かんなを1回かけるだけで変わってしまうので、微調整をしながら何回も確認して最後に仕上げる」
(石橋葵さん)
「一緒に頑張れるというのはすごく大きい。同期として競い合うこともできたので、その分いままでより自分にもすごく厳しくなれた」
(大滝陽平さん)
「切磋琢磨して頑張ってきたのがやっと実った。金メダリストの石橋さんからたくさん指導を受けて、やっと獲ることができた賞なのですごくうれしい」
(庄司将史さん)
「石橋さんと大滝さんはすごい憧れ。同期だからこそ相談しやすい・話しやすいので、この同期3人でこの会社で出会えて良かった」
ことし23歳の3人は今回が最後の技能五輪。
石橋さんは後輩に経験を伝えながらこれからも挑戦を続ける。
(石橋葵さん)
「挑戦する楽しさ、みんなに楽しさを知ってもらいたい。職人として、人に笑顔になってもらえるような家具を作れるようになりたい」
去年3連覇したあと、石橋さんは「技能五輪」にもう一度挑戦するか引退するか悩んだそう。そこで「一緒に頑張ろう」と背中を押してくれたのが同期2人だった。取材し、刺激し合える良い関係なんだなというのがわかった。
石橋さんは今後、選ばれたベテランの職人しか参加できない「技能グランプリ」に挑戦したいと意気込んでいた。これからの挑戦にも期待したい。